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今日の読書 百年法/山田宗樹

不老不死(不死の方は自然死がほぼ無くなったというだけで、物理的衝撃を与えれば死ぬので厳密に不老不死かというとまた違いますが)が実現した世界を舞台にしたSF小説になります。

不老不死が実現した世界では、自然死がほぼ無くなったという事で、不老不死の手術を行った者は百年後には死を受け入れなくてはならない、百年法というものが行われ、物語は百年法が初めて施行される直前から始まります。

不老不死という現実社会とは別の世界を設定する事により、現実の現在の日本の問題点を暗喩するような形になっていますね。

不老不死という前提があるからこその停滞感、世代間格差、少子高齢化、家族という単位の崩壊と個人主義。

こういった現在の日本の問題点だけではなく、社会システム政治システム、共産主義的なものを彷彿とさせるものから、民主主義が衆愚政治に陥る危険性、独裁政権の短期的有効性と長期的腐敗などなど、現実とは違う危機感を煽る世界を作って、それがそのまま現在の日本の問題点をメインに考えさせようとする狙いもあるのかなと。

驕れるものも久しからず、盛者必衰の理を表す

有名な平家物語の一説ですが、日本人の多くはこういったことが頭の片隅にあると思います。

盛者必衰、これが日本国内の権力争いという程度に収まってくれるのならば問題は無いのですが、日本という国家の単位で必衰となってもらっては困るわけですね、多少の浮き沈みがあるにしても沈みっぱなしでは困るという程度の物でも構わないのですが。

そういった危機感、国家という単位で存亡の危機からの脱出を描く物語が書かれる時代になったあたり、なかなか感慨深いものがありますね。

第二次世界大戦の敗戦以降、この国では国家権力=悪とみなす単純思考が幅を利かせていましたし、国家のためを考える事よりも、個人主義の方が絶対的に尊いものであるという価値固定主義が蔓延していましたし、そういう意味では、今は敗戦以降の日本人の反権力反国家的な価値固定志向も必衰になってきたのかもしれないなと。

どんな社会制度だろうと、どんなに出発点が正しい考え方であろうとも、世の中に絶対という物はあり得ず、時代が変われば変化もするし、運用する側に悪しき変化もありうると、結論はそういところになるんだよなぁと思わされますね。

逆に独裁というものが一見出発点は問題が多いものであっても、短期的という条件を付ければ正しい方向に向かう事ができるという例をあげて、出発点としての善悪だけで物事を判断したり、脊髄反射で批判したりする現在の日本の世論誘導に警鐘を与えたいという意識もあるのかなぁと勝手に思える作品ですね。

現在の日本の問題点の1つである世代間格差という物にかんしては、結局は年寄りが本気で日本の未来を考えずに、新陳代謝を阻んでいたり、限りある資金をいかに自分たちに誘導するかばかりを考えていたりするという事であったりもするわけで、それを解消するには本気で何がしかの極論も取り入れないといけないだろうなぁとも思わせられますが、じゃあ何があると問われると困るんですよね。

参考文献に塩野七生の『ローマ人の物語』マキャヴェッリの『君主論』が上がっていますが、文献を参照しなくても現実社会の問題点、特に出発点は正しく思えるものであっても、制度疲労を起こしている物はかなり意識しているんだろうなぁと思えましたね。
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