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今日の読書 世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠/ジョセフ・E・スティグリッツ

アメリカのノーベル経済学賞受賞歴のあるスティグリッツの雑誌や新聞に寄稿した物をテーマ別に再構成してまとめた1冊になります。

スティグリッツは研究の中心命題が情報の非対称性という事で、いかに非公正や不平等が経済に悪影響を与えるかというものであり、いわゆる市場原理主義であるとか新古典主義というアメリカの主流派の論理をボロカスに批判している人ですが、そのスタンスはかわらないままですね。

日本語訳されたものを読み続けているので、基本的にアメリカの共和党政権の推し進める規制緩和、高所得者への積極的減税によるトリクルダウン理論、積極的な緊縮財政によるセーフティネット破壊などなど、また繰り返されているなというのと同時に、オバマ民主党政権もチェンジと言っていながらも、金融業界には無制限の援助をするのに、大多数のアメリカ国民は予算がないからと社会保障が削られて行き、教育格差は広がるばかりだし、選挙結果が何も意味をなしていないじゃないかというのを嘆きまくる構図なのは、前から何冊も読んできているので、ある意味再確認ですね。

アメリカの一部業界によるレントシーキングという、利権によるピンハネを正義とする風潮、教育が金持ちしか不可能になりアメリカンドリームという前提が既に崩れているし、日本もびっくりの世襲制社会に陥っているというなどなど。

目新しいものとしては、昨今日本でも話題になったフランス人経済学者であるトマ・ピケティについて扱っているという事でしょうか。

『21世紀の資本』で資本主義の問題点として、根本的に不平等が組み込まれていると資本主義全否定に近いスタンスなのに対し、資本主義という構造に問題点があったり、ピケティの示す解決策は実現できるかどうかは考えていない理想論という所を指摘し、資本主義が問題というよりも、えせ経済学が問題であり、資本主義というよりも市場主義の問題点、市場の失敗(この単語は説明の中に入ってきませんが)を修正するのではなく、拡大する方向に政策を推し進めているのが現在のアメリカという指摘ですね。

実際問題、アメリカではスティグリッツの指摘がどれだけ社会に影響があるのか分かりませんが、アメリカの金融業界の暴走始め、グローバリズムという名の暴力的な不平等条約とか、いい加減にやめた方が良いというように世論がなってくれると助かるんだがなぁと思わずにはいられないんですよね。

私は国内問題に対してはいわゆる左翼批判的なものを好んで読むのに対し、アメリカに対しては市場原理主義、アメリカの右翼的政策について批判するものを好んで読む傾向があります。

保守か革新かなんていうのはそれぞれの国によって立場が変わり意味そのものが変わるのですが、どうにもアメリカの保守批判(経済政策として)を読み左派的な立場をとれというのを読んでいると、ある意味行きつく先は日本の現在の立ち位置になるんですよね。

ここら辺がある意味読んでいて頭を切り替えなければいけないというか、言葉の意味が変わってしまう所なんですが、改めて日本の政治家の右か左かは経済政策とは無縁の言葉でしかないと。

スティグリッツのアメリカの保守批判の1つに緊縮財政批判というのがありますが、日本では左扱いされる民主党政権時代に何を一番喧伝していたかというと事業仕分という緊縮財政だったりするんですよね。

財政赤字が問題だという議論はもちろんありますが、スティグリッツはアメリカの問題点として金融政策ばかりで財政支出を嫌悪する事こそが問題という、ケインズ経済学視点なわけですが、ここら辺日本人が読んでいると結構混乱しそうだなぁと。

アメリカのそれこそオバマ政権の経済政策を保守的、右翼的と批判し、逆に触れられている所は少ないものの日本の不況脱出策であるアベノミクスの出発点を高く評価している、むしろ反右翼的として評価しているあたり、経済政策を中心に考えない日本ではなかなかわけがわからなくなりますね。

まぁ、消費税増税のタイミングは疑問を呈していましたし、アメリカ型に向かおうとしているという懸念はきちんと指摘していますが、できれば経済政策を立案する立場にいる人間に市場原理主義者が紛れ込んでいる事を懸念材料にしてくれると良かったんでしょうが、アメリカの政治家と違いそこら辺に突っ込んで行くには情報不足でしょうから、無理というものでしょう。

基本アメリカの問題点について書いてあるものですから、アメリカに厳しく他国についてはアメリカよりも優れている部分を持ち上げるので、そういう意味では非対称性を感じますが、そういった非対称性を使ってでもアメリカの問題点をあげつらう狙いであると理解した上で読むのが正しいんでしょう。

Prelude 亀裂の予兆
      世界大不況と格差の深い繋がり
      ブッシュ氏の経済学の成績
      資本家は欺く
      ある殺人事件の考察 誰がアメリカ経済を殺したのか
      金融危機から脱却する方法

第1部 アメリカの“偽りの資本主義”
      えせ資本主義から抜け出すために
      1パーセントの1パーセントによる1パーセントのための政治
      1パーセントの問題
      低成長と不平等は政治決断でありわたしたちは別の道を選択できる
      不平等は選択の結果
      21世紀の民主主義
      偽りの資本主義

第2部 成長の黄金期をふり返る 個人的回想
      わたしには夢があった
      キング師がわたしの研究に与えた影響
      アメリカの黄金時代という神話

第3部 巨大格差社会の深い闇
      底辺から浮かびあがれない暮らし
      機会均等、アメリカの神話
      学生ローンとアメリカンドリームの失墜
      一部のための正義
      残された解決策はひとつ 大規模な住宅ローン組み換え
      不平等とアメリカの子供
      エボラと不平等

第4部 アメリカを最悪の不平等国にしたもの
      税金を払わないのは誰なのか?
      富裕層のためのアメリカ型社会主義
      99パーセントに不利な税制
      グローバル化は収益だけではなく税金にも影響をあたえる
      ロムニー理論の誤謬

第5部 信頼の失われた社会
      フェアプレー精神は衰退した
      デイトロイト破綻からの間違った教訓
      我ら誰も信じざる

第6部 繁栄を共有するための経済政策
      誤ったグローバル化が人々を苦しめる
      政策が巨大経済格差を形成する仕組み
      ラリー・サマーズではなくジャネット・イエレンがFRBを率いるべき理由
      常軌を逸したアメリカの食糧政策
      グローバル化のマイナス面
      自由貿易という言葉遊び
      知的財産権が不平等を拡大する仕組み
      特許を与えないインドの英断
      極度の不平等を是正する 2015-2030年期の持続可能な開発目標
      危機後の危機
      不平等は必然ではない

第7部 世界は変えられる
      モーリシャスの奇跡
      不平等なアメリカが学ぶべきシンガポールの教訓
      日本を反面教師ではなく手本とすべし
      中国の国家と市場バランスを改革する
      街へと導く光
      地球の裏側から見るアメリカの幻影
      スコットランドの独立

第8部 成長のための構造改革
      “雇用なきイノベーション経済”を改革する
      アメリカに本来の機能を取り戻させる方法
      回復の足を引っ張る不平等
      雇用記
      潤沢な時代の稀少
      成長のための左傾化
      イノベーションの謎

会談 全ての人に成功の基盤を

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ジャンル : 小説・文学

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