今日の読書 日ロ関係歴史と現代/下斗米伸夫編著
法政大学現代法研究所における日ロ関係における研究プロジェクトの成果として一冊にまとめられたものになります。
厳密にはロシアがソ連だった時代もあるので、日ロだけではなく、日ソというのも含まれますが時代によってどういう関係性であったのか研究するという事ですので、一般所ではなく専門書扱いという事でいいんですかね、私は歴史的な知識に乏しいので読んでいて素直に受け取るしか出来ないのですが、まぁロシアに関してはソ連崩壊から一連の流れとか結構気にしていて多少の前知識はあるので、ある程度は理解出来ましたかね。
本編よりも序文に、妙な懐かしさを感じたりしたのですが、それはどうでもいい事として。
日本とロシアとの関係が始まった江戸・明治期から現代までそれぞれの時代区分で研究者の論文という形でまとめられているのですが、今でもある程度通じるロシアのイメージというか、プラス面とマイナス面が簡単に入れ替わったり、表裏一体であったりというのが面白いですね。
鎖国時に早い段階でロシアとの接触があり、近代化していた西洋と時代の流れを止めていた日本とのギャップで、進んだ西洋社会として憧れの目をむけてみたらば、ロシアは西洋社会では実は遅れていたとか、アメリカが開国をせまる時に傲慢な印象を強めたのと比べると、ロシアは義理堅く映ったがその裏で信用しきれ無さも即座に分かるとか、とかく単純な評価にはならないというあたり面白さがありますね。
江戸、明治と日本が西洋に追いつこうと必死にしている中で見えるロシアという物から、ある程度対等に領土問題を交渉する伊藤博文の苦悩というのも、面白いとところで、ロシアに対する膨張主義が朝鮮半島にまで迫って来るという危機を回避するために、満州の権益をロシアに譲歩するから、代わりに朝鮮半島は独立させろという交渉も、互いの思惑がすれ違い、伊藤博文は日本政府のイギリスとの同盟などの思惑があるから、交渉しきれないとか、ロシアはロシアで日本が満州の権益を譲るというのは見せかけだけと判断していたとか、とかくすれ違いだらけだし、ロシアとの関係だけではなく満州との交渉をやっていたらば、いきなりテロリストに殺されてしまうしと、なかなかのカオスぶり。
日露戦争という露骨な日ロ関係の危機であるとか、二次大戦もシベリア抑留が出てはきますが、日ソ不可侵条約を破って火事場泥棒状態になった事そのものへの力点が薄いのは少し気にはなりますが、戦争そのものを扱うともはや関係云々吹っ飛ばしたものになるという事なんでしょうね。
その代わりと言ってはなんですが、火事場泥棒のイメージを強くした出来事としてシベリア抑留についての解説、そして、シベリア抑留からの引き揚げ者たちが、プロバガンダとして利用され、いかに共産主義が非人道的なものであるかというイメージを強めさせたというのと同時に、ソ連のスパイとして疑われたという問題になったというものにというのには力点が入りまくり。
そして、戦後の領土問題としてソ連がアメリカの沖縄と小笠原諸島を領土にくみこんだのは植民地主義として牽制し、日米関係を離反させようという狙いと、ある意味それが日本にとっては領土返還に繋がったが日米同盟を強化させる結果になったという流れ、そして、逆に北方領土は意地でも返さないソ連ロシアという関係性。
現代では、日本とロシアとの関係は中国という存在との綱引き状態で、しょっちゅうパワーバランスが変わっているという流れ、ある意味では三すくみ状態で今のところまだ明らかな解決というものにはなってはいないという事ですね。
基本的に専門の研究論文ですので、もう少し前知識が無いと分かりにくい部分はあるにはあるのですが、戦後の流れというのは結構理解しやすかったですね、個人的にはロシアと中国がもっとガッツリといがみ合ってくれるのが日本の平和のためには助かるなぁというのが本音ですが、残念ながらそう簡単なものではないんですよね。
序 文 下斗米伸夫
第1章 江戸・明治期における日本の対露イメージ 黒沢文貴
はじめに
1 大津事件までのロシアイメージ
2 日露戦争までのロシアイメージ
おわりに
第2章 明治維新前後生まれの日本知識人がイメージしたロシア
二葉亭四迷とと内田良平の場合 木村崇
はじめに
1 双葉対指名にとってのロシア
2 内田良平にとってのロシア
まとめにかえて
第3章 伊藤博文のペテルブルグ訪問(1901年11-12月)
コンスタンチン・サルキソフ
はじめに
1 出発
2 入露
3 日露交渉
4 新協定草案
5 挫折
第4章 冷戦初期日本における菅季治の犠牲
赤狩りとソ連からの引揚者 シェルゾッド・ムミノフ
はじめに
1 歴史と記憶に見る抑留
2 奴隷の王国 引揚者を通して語られるソ連
3 「徳田要請問題」と日本における冷戦の最初の犠牲
おわりに
第5章 シベリア抑留の論争問題と論点整理 富田武
はじめに
1 捕虜から、抑留者か
2 ソ連はいつ捕虜の領内連行をけっていしたか
3 北朝鮮残留日本人と捕虜
4 南樺太抑留と大陸流刑
5 抑留者、抑留死亡者、帰還者
第6章 五五年体制と領土
沖縄・小笠原と北方領土をめぐって 河野康子
はじめに
1 冷戦下の領土 日ソ関係と日米関係
2 フルシチョフ演説(1960)からケネディ声明(1962)へ
3 冷戦の変容と領土
おわりに
第7章 1970年代の日ソ・エネルギー協力における政治要因
スヴェトラーナ・ヴァシリューク
はじめに
1 日本のエネルギーに関する組織的枠組みの概観
2 ソ連のエネルギーに関する組織的枠組みの概観
3 1970年代の二国間エネルギー協力の補完性とダイナミックス
4 サハリン石油ガス開発プロジェクト
5 ヤクーチャガス・チュメニ石油プロジェクト
おわりに
第8章 日ソ・ロ関係と中国
その史的法則とメカニズム 趙宏偉
はじめに
1 戦後東アジア冷戦秩序の形成 ソ中同盟対日米同盟(1949-1966)
2 東アジアの冷戦の雪解け 日米中の反ソ共同戦線(1972-1989)
3 ポスト冷戦期における日ロ中の対等三角関係(1990-2012)
4 安倍・プーチン友情外交対中ロ「特殊関係」(2012-)
厳密にはロシアがソ連だった時代もあるので、日ロだけではなく、日ソというのも含まれますが時代によってどういう関係性であったのか研究するという事ですので、一般所ではなく専門書扱いという事でいいんですかね、私は歴史的な知識に乏しいので読んでいて素直に受け取るしか出来ないのですが、まぁロシアに関してはソ連崩壊から一連の流れとか結構気にしていて多少の前知識はあるので、ある程度は理解出来ましたかね。
本編よりも序文に、妙な懐かしさを感じたりしたのですが、それはどうでもいい事として。
日本とロシアとの関係が始まった江戸・明治期から現代までそれぞれの時代区分で研究者の論文という形でまとめられているのですが、今でもある程度通じるロシアのイメージというか、プラス面とマイナス面が簡単に入れ替わったり、表裏一体であったりというのが面白いですね。
鎖国時に早い段階でロシアとの接触があり、近代化していた西洋と時代の流れを止めていた日本とのギャップで、進んだ西洋社会として憧れの目をむけてみたらば、ロシアは西洋社会では実は遅れていたとか、アメリカが開国をせまる時に傲慢な印象を強めたのと比べると、ロシアは義理堅く映ったがその裏で信用しきれ無さも即座に分かるとか、とかく単純な評価にはならないというあたり面白さがありますね。
江戸、明治と日本が西洋に追いつこうと必死にしている中で見えるロシアという物から、ある程度対等に領土問題を交渉する伊藤博文の苦悩というのも、面白いとところで、ロシアに対する膨張主義が朝鮮半島にまで迫って来るという危機を回避するために、満州の権益をロシアに譲歩するから、代わりに朝鮮半島は独立させろという交渉も、互いの思惑がすれ違い、伊藤博文は日本政府のイギリスとの同盟などの思惑があるから、交渉しきれないとか、ロシアはロシアで日本が満州の権益を譲るというのは見せかけだけと判断していたとか、とかくすれ違いだらけだし、ロシアとの関係だけではなく満州との交渉をやっていたらば、いきなりテロリストに殺されてしまうしと、なかなかのカオスぶり。
日露戦争という露骨な日ロ関係の危機であるとか、二次大戦もシベリア抑留が出てはきますが、日ソ不可侵条約を破って火事場泥棒状態になった事そのものへの力点が薄いのは少し気にはなりますが、戦争そのものを扱うともはや関係云々吹っ飛ばしたものになるという事なんでしょうね。
その代わりと言ってはなんですが、火事場泥棒のイメージを強くした出来事としてシベリア抑留についての解説、そして、シベリア抑留からの引き揚げ者たちが、プロバガンダとして利用され、いかに共産主義が非人道的なものであるかというイメージを強めさせたというのと同時に、ソ連のスパイとして疑われたという問題になったというものにというのには力点が入りまくり。
そして、戦後の領土問題としてソ連がアメリカの沖縄と小笠原諸島を領土にくみこんだのは植民地主義として牽制し、日米関係を離反させようという狙いと、ある意味それが日本にとっては領土返還に繋がったが日米同盟を強化させる結果になったという流れ、そして、逆に北方領土は意地でも返さないソ連ロシアという関係性。
現代では、日本とロシアとの関係は中国という存在との綱引き状態で、しょっちゅうパワーバランスが変わっているという流れ、ある意味では三すくみ状態で今のところまだ明らかな解決というものにはなってはいないという事ですね。
基本的に専門の研究論文ですので、もう少し前知識が無いと分かりにくい部分はあるにはあるのですが、戦後の流れというのは結構理解しやすかったですね、個人的にはロシアと中国がもっとガッツリといがみ合ってくれるのが日本の平和のためには助かるなぁというのが本音ですが、残念ながらそう簡単なものではないんですよね。
序 文 下斗米伸夫
第1章 江戸・明治期における日本の対露イメージ 黒沢文貴
はじめに
1 大津事件までのロシアイメージ
2 日露戦争までのロシアイメージ
おわりに
第2章 明治維新前後生まれの日本知識人がイメージしたロシア
二葉亭四迷とと内田良平の場合 木村崇
はじめに
1 双葉対指名にとってのロシア
2 内田良平にとってのロシア
まとめにかえて
第3章 伊藤博文のペテルブルグ訪問(1901年11-12月)
コンスタンチン・サルキソフ
はじめに
1 出発
2 入露
3 日露交渉
4 新協定草案
5 挫折
第4章 冷戦初期日本における菅季治の犠牲
赤狩りとソ連からの引揚者 シェルゾッド・ムミノフ
はじめに
1 歴史と記憶に見る抑留
2 奴隷の王国 引揚者を通して語られるソ連
3 「徳田要請問題」と日本における冷戦の最初の犠牲
おわりに
第5章 シベリア抑留の論争問題と論点整理 富田武
はじめに
1 捕虜から、抑留者か
2 ソ連はいつ捕虜の領内連行をけっていしたか
3 北朝鮮残留日本人と捕虜
4 南樺太抑留と大陸流刑
5 抑留者、抑留死亡者、帰還者
第6章 五五年体制と領土
沖縄・小笠原と北方領土をめぐって 河野康子
はじめに
1 冷戦下の領土 日ソ関係と日米関係
2 フルシチョフ演説(1960)からケネディ声明(1962)へ
3 冷戦の変容と領土
おわりに
第7章 1970年代の日ソ・エネルギー協力における政治要因
スヴェトラーナ・ヴァシリューク
はじめに
1 日本のエネルギーに関する組織的枠組みの概観
2 ソ連のエネルギーに関する組織的枠組みの概観
3 1970年代の二国間エネルギー協力の補完性とダイナミックス
4 サハリン石油ガス開発プロジェクト
5 ヤクーチャガス・チュメニ石油プロジェクト
おわりに
第8章 日ソ・ロ関係と中国
その史的法則とメカニズム 趙宏偉
はじめに
1 戦後東アジア冷戦秩序の形成 ソ中同盟対日米同盟(1949-1966)
2 東アジアの冷戦の雪解け 日米中の反ソ共同戦線(1972-1989)
3 ポスト冷戦期における日ロ中の対等三角関係(1990-2012)
4 安倍・プーチン友情外交対中ロ「特殊関係」(2012-)