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今日の読書 紙幣肖像の近現代史/植村峻

現在日本で使われている紙幣には、1万円札に福沢諭吉、5千円札に樋口一葉、千円札に野口英世の肖像が使われていますが、こういった紙幣に肖像が使われるようになった近代以降、紙幣の変化を偽札対策としての技術進化と、デザイン変更に伴って使われる肖像の変化における歴史的な流れの両方を解説するのが本書になります。

紙幣製造の技術的な歴史というのも、元々はドイツから印刷技術を輸入したり、紙幣制作に手を借りていたりと面白い部分はあるのですが、そこら辺の発展に関しては印刷技術に対する知識は深く持ち合わせていないので、軽くそういうものなんだという感想しか抱けないのですが、肖像に使われる人の変化というのは面白く感じさせるものが多いですね。

君主国家であると、概ね君主そのものであるとか建国に携わった人の肖像が使われることが多いのですが、日本の場合近代に入って紙幣を発行仕様となった時に、うってつけの人物である明治天皇がそれを拒んだ事から直接的に天皇が肖像に使われるという選択肢が無くなったという事が大きな特徴の1つになっています。

それでいながら、明治政府というのは欧米列強に対抗するためにも絶対的な中心軸として天皇家を据える事は外せないということで、『古事記』や『日本書紀』に登場する伝承上の人物などをメインに天皇の忠実な臣下として活躍したり、天皇家を守るために奮闘した人物として、日本武尊、武内宿禰、藤原鎌足、聖徳太子、和気清麻呂、坂上田村麻呂、菅原道真の7人がまずは選定されて、明治から戦前まではこういった人物を1つの基準にしていたという事。

こういった人物選定と寺社仏閣や仏像などの伝統文化財や、いかにも日本だよなと思えるものを詰め込んだ形で発展していったと。

私は直接触れたことがある紙幣としてはこの中で聖徳太子だけがありますが、写真のない時代の人物を紙幣に使う場合、どうやって肖像画を描くのかというのが気になっていたりしたのですが、絵として残っているものを元にして、なんとなくイメージに合うかなという人もモデルとして使って立体的な絵に仕上げる作業をしていたというのが初めて知り驚きました。

発展していったとは言え、日本が直接戦争を行うようになると、紙幣を作るのにも手がかかったものが作れなくなるとか、不景気が迫っているとせめて景気が良く感じる強さを求めたりとか紆余曲折があったり、楠木正成というわかりやすい人物が使われたりとかありましたが、とにかく太平洋戦争敗戦で強制的にそれまでの流れが変えられます。

GHQの指令により、皇国史観、軍国主義を思わせる人物はダメ絶対となり、最初に選定された7人の中では聖徳太子だけが何とか使用許可が出て他はダメ。

仏像の使用なども婆娑羅大将や弥勒菩薩も婆娑羅大将は攻撃的過ぎて恨みを晴らそうとする気分を作るとか、弥勒菩薩だと日本人が敗戦の悲哀を感じているように見えるからと言う形で拒否されるとか、まぁ勝てば官軍とばかりにいろいろと日本人の価値観を否定することによってアメリカが日本をコントロールしようとしているのが分かるなぁと。

宗教的な価値観を破壊する事によって統治を楽に勧めようとしたのでしょうが、ある意味日本の場合近代化で欧米列強に負けないために一神教的なものに転換するために力技の皇国史観にしていたので、それを否定したらば本来の多神教的な方向に戻れば良いだけの話だったので、反発が少なかったのかなと個人的に分析しておきます。

本書の内容に一切関係ないですが、このアメリカの日本統治の成功体験がその後アメリカの中東での失敗につながっているんだろうなぁと言うのは宗教面での圧迫の失敗に繋がっていて、一神教しか信じていない他の宗教でぶつかると本気で反発しか残さないと言うことなんだろうと、GHQの日本統治のある種の成功例はそれだけ日本の宗教的特殊性ありきのものだったなと勝手に思っておきます。

それはそれとして、当時のGHQ経済科学局長大佐の名前がクレーマーというのは笑ってしまいました。

日本は敗戦国ですからいろいろと押しつけられるのは仕方が無いとはいえ、言いがかりレベルのものだらけにしか思えない記録を見るとクレーマーという名前は狙っていたとしか思えないんですよね(苦笑)

戦後、紙幣に登場するのは文化人メインに舵を切る事になり、人物選定もいろいろと議論されているようですが、ここ最近はどちらかというと偽札対策により力点が行っていて、とにかく偽札対策のために新たな紙幣を発行しないといけない、新しくするならば人物も変えた方がいいと言う流れだと。

紙幣に使われると当然知名度が上がるわけですが、逆に最初に選定された7人の中でも武内宿禰、和気清麻呂あたりは歴史の授業で習ったっけ?という程度の感じなんですよね、少なくともかつては重要人物扱いされていたわけですし好きか嫌いかは横に置いて重要人物扱いされていたという事でもっとクローズアップしてもいいんじゃないかとも思いました。

第1章  紙幣や銀行券に肖像を使用するのはなぜか
第2章  貨幣の始まりと遅れて登場した紙幣
第3章  肖像のなかった明治初期の官省札
第4章  龍や鳳凰が舞う新紙幣(ゲルマン紙幣)
第5章  近代的銀行券の先駆け・為替会社札と国立銀行紙幣(旧券)
第6章  初めての洋式国産紙幣の人物像
第7章  改造紙幣・神功皇后札発行
第8章  日本銀行の創設と兌換銀券「大黒札」の製造
第9章  改造兌換銀券の製造
第10章 金本位制下での甲兌換銀行券の発行
第11章 乙券に登場の機会を失った坂上田村麻呂
第12章 金融恐慌時の裏白券などの簡易紙幣
第13章 兌換銀行券整理法と聖徳太子登場
第14章 富士山の政府紙幣、日本武尊の登場
第15章 戦時中の粗末な銀行券
第16章 GHQに拒否された仏像の肖像
第17章 明治の政治家、岩倉・高橋・板垣が登場
第18章 高度経済成長とC券シリーズの発行
第19章 昭和59年発行のD券に文化人トリオ誕生
第20章 ごく小さな紫式部の肖像入り2000円券の発行
第21章 現行E券シリーズも文化人肖像で

テーマ : 読んだ本の感想等
ジャンル : 小説・文学

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