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今日の読書 EU騒乱 テロと右傾化の次に来るもの/広岡裕児

相次ぐテロ、移民問題、財政破綻などなど、現在のEUは混沌とした状態であり、本来望まれた理想としての共同体からは著しく乖離している状況であると言っても過言では無いでしょう。

理想が理想的すぎて現実を見据えていなかったという出発点から無理があったという考え方もあれば、EUという共同体構想は間違いでは無いけれども想定外の事が起きすぎているという考え方、出発点は悪くないけれども社会の変化が速すぎて制度疲労や硬直化が起って現実と乖離してしまったなどいくらでも現在の状況を分析することは可能でしょう。

それらの全てが当たっている部分もあれば見当外れのものもあり、絶対的な正解を持ち得てる人はいないでしょうし、単純な全肯定か全否定という分析や解決方法を提示すると、さらに現実と乖離していくというのが正解でしょうね、ある意味問題が複雑過ぎてどこから手をつけて良い物やらというのが実情。

この本が書かれた時点ではイギリスのEU離脱は国民投票に委ねられると言うまでの段階で結果は出ておらず、どちらかというとEU離脱の引き金はギリシャにありというところで、でもまだ引き金は引いていないギリギリの所という感じですね。

イギリスのEU離脱が決まった直後も全肯定か全否定かどっちかの予測であるとか世論誘導が行われていましたが、正直私はこれからどうなるのか分からないというのが正解じゃないかなぁと思っていたりします。

まぁ予測できないが答えだったりすると、そういう分析をして飯を食っている人は困るでしょうが、問題解決と言うことでは、全肯定か全否定の二択で答えを出そうとすると現実と乖離したものしか提示できなくなるというのが実情でしょうね。

良い方に転がるか悪い方に転がるか、両方とも考えられる要因はありますし、その予想通りに動くかどうかは実際問題中にいる人達が、どう受け止めどう修正するかに掛かっていているわけですからね。

絶対に避けねばならないのは単純な善悪二分論、手段と目的の入れ替えということになると思いますが、単純な二択の論理って力強いですからねぇ・・・

私も偉そうにやってはいけない事として提示までは出来ますが、じゃあ単純な二択にならないような最適なバランスってどういうものかとなると、提示できませんし、たぶん極論を廃したところで最適なバランスを考える事って机上で出来たとしても、現実的に調整可能なのかというと大人の事情でだいたいダメになると思っていたりも諦めていたりもしますしね。

前置きが長々となってしまいましたが、本書の著者はフランスの大学に留学し、現在はフランス在住のジャーナリストということで、視点は基本的にフランスが中心となっています。

フランスの中にいるからこそ分かる問題点とフランス外から扱われる指摘であるとかイメージの乖離を埋める事はかなり意識している感じがします。

特に昨今の移民問題は、イスラム難民、偽装難民テロリストがテロし放題という事ではなく、テロを起こしているのは、それ以前に移民してきた人々の2世や3世が実は多いと言うこと。

そういった人々がテロを起こす理由として経済困窮問題があり、歴史的に移民を低賃金労働者として扱ってきて、不法労働者も好景気時代には目をつぶって定住させてしまった事。

定住してしまった者を、景気が悪いからと言って追い出すわけにもいかず、低賃金労働者は低賃金労働者として格差固定から抜けられるわけでもなく、景気が悪くなれば一番最初に使い捨てられる存在であり、また低賃金労働者として移民が大量移入してきた影響で、土着民もまた低賃金労働者として低賃金という社会的ダンピングから逃れられず、そういう社会的ダンピングが行われる社会状況が、社会のグローバル化という資本家による格差固定システムであり、アメリカ主導のそういった悪しきグローバル経済が悪用しやすい土壌をEUは結果的に補佐する形になってしまったと言う事ですね。

ここら辺はEUに限らず世界的問題であり、いわゆるアメリカが提唱するグローバル経済というものは、市場原理主義であったり、投機金融型資本主義であったりとで問題がありすぎるとして散々そういう者を否定する者を読んできていますから私は理解しやすいと同時にEU独自問題としては目新しさは感じませんね。

新自由主義的なグローバル化は結局対立構造を作り続けると結論を出して構わないと思い、人によってグローバル化という単語の定義づけそのものが違って、定義づけすらすりあわせをしないで、反グローバルというものに対して脊髄反射で対立しているのを目にするようなしないようなという感じですし。

フランス国内からの視点として面白いのは、トマ・ピケティの扱いですね。

日本でも一時もてはやされたというか、現在の経済学者の名前が一般的に流布する事が珍しいので、なかなかインパクトがありましたが、フランス国内では別段新しい視点でも何でもなく、アメリカが極端に振れすぎているから目新しく感じる、またはアメリカの現在の経済状況がおかしいという外からの視点を導入するという意味で目新しかった程度だと。

そして、ピケティが一見格差の問題を重視していてしっかりと解説できているかというと、上位層と中位層の断絶と言う事に関しては説明していても、ガッツリ最下層については基本スルーしているという扱いでしかなないと、結構辛辣ですね。

そして、面白いというか混乱せざるを得ないのはリベラルという言葉の定義づけがアメリカであるとか日本とフランスでは完全に別物であって、日本のイメージするリベラルというのは左側の思想の人を指し示すのに対し、フランスでは自由主義者としてリベラル、だからそれこそアメリカの共和党はリベラルど真ん中に当たり、ここら辺用語をどう解釈しているか、きちんと分かっていないと意味不明になるなという事ですね。

逆に日米でイメージされるリベラルに相当する単語はソシアルであり、これもいわゆる社会主義者とも違うという、またややこしいですが、イメージとしてはバブル崩壊前の最も成功した社会主義国家日本と言われた頃の日本とすると結構近いと言う事ですかね(ただし、国家としての日本は島国とほぼ単一民族という特殊性ありきなので、国境が地続きであるとか、移民がアホほど流入してきて人種やバックボーンがバラバラな状況で成り立たせるとなるといろいろと苦労が違うので単純比較は出来ない)

とりあえず、ギリシャの財政破綻とEU離脱問題や移民やテロの問題が山積みのEUですが、表沙汰になっている悲観的な部分だけを必要以上に取り上げる必要は無いのでは無いかというのが著者の視点になっています。

民主主義のあり方が変わってきていて、現在はその過渡期、そもそも民主主義の成り立ちもエリート主義が色濃く残っていて、格差固定、身分固定システムがヨーロッパ全体に実は張り巡らされている状況であり、騒乱は騒乱として問題ではあるが、格差拡大格差固定さえ修正すれば新たな時代が生まれてもおかしくはないのではないかとしています。

まぁEUが戦争が巨大化しすぎて、外交手段として得る物がなくなりすぎた時代だからこそ出来たシステムだからこそ、どこかで戦争回避する方向に進むという、ある種の楽観論ありきではありますが、実際問題どうなるのか、私には予想出来ません。

別に戦争が起きて欲しいという思いは全くないですけれどもね。

第1章 欧州議会選挙ショック
第2章 EUとギリシャの危険なドラマ
第3章 「共同体」の選択
第4章 別の欧州
第5章 民主主義の出口

テーマ : 読んだ本の感想等
ジャンル : 小説・文学

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