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今日の読書 ラトヴィアを知るための47章/志摩園子・編著

一般的にはラトビアと表記されるものの、編者のこだわりでラトヴィアと統一表記するというこだわりも込めた、ラトヴィア全般の知識をコンパクトにまとめた1冊。

リトアニア、ラトヴィア、エストニアのバルト三国というのは、かつてソ連邦崩壊で真っ先に飛び出た地域と言う事で、非常に存在感を示したわけですが、正直私の知識は偏っているので、ひとまとめとしてのバルト三国という以外の知識はバスケットボール選手から。

リトアニアは早い段階からNBA選手として活躍するだけではなくオリンピック代表でメダルを捕ったり、アメリカのバスケットボールとは全く違うタイプの戦い方をしたり、また名前がサボニスやイルガウスカス、ストンベルガス、ヤシケビシャスと最後がスとつくだけではなく、何となくリトアニアっぽいよねと感覚的に分かる存在感を持っていたのですが、お隣のラトビアも昨シーズンのルーキーであるクリスタプス・ポルジンギスという規格外の選手が出てきて、バルト三国という括りでバスケも凄いんだねと意識するようになりました。

まぁアンドリス・ビエドリンシュという選手もNBAでは短期間だけ活躍していましたけれどもね。

偏った知識を持っているだけでは面白くないですし、バルト三国という存在はソ連という壮大な社会実験に関わった国。

共産主義という経済的実験なだけではなく、ヨーロッパにおける近代民族国家が成立してまだ間もないところから、一気に民族的独自性や土着文化をないがしろにする全体主義という2つを柱とした社会制度の実験につきあわされた被害者という意味でも、やはり歴史的教訓としてしっかりと意識しないといけないですね。

私は、ソ連にしろ旧ユーゴスラビアにしろ、異民族国家を無理矢理一つにまとめる事の無謀さという所に力点を置いて、混ぜるな危険という事にして、行きすぎたグローバリゼーションは土着性破壊の全体主義であり、かつての共産主義国家の過ちを繰り返す可能性が高いという考え方に固まっているので、混ぜすぎる事の悲劇は必要上に喧伝する立場だったりします。

ラトヴィアについて歴史的な背景も少し振れますが、基本は現在についてなので、ソ連から独立した後のことを中心として扱われていますが、やはりソ連に組み込まれていた反動というのは1つのカギになっています。

国家として独立して基本ラトヴィア人のための民族国家となるのを理想としてはいるものの、ソ連時代に移住してきたロシア人の割合が一定数いて、それまではラトヴィア人のアイデンティティとしてラトビア語を話せるようにしている一方、共通語としてのロシア語は必須。

ロシア人は共通語としてのロシア語しか知る必要はなく生活してきたのが、今度はラトヴィア回帰路線に巻き込まれて、それまでのソ連では多数派のロシア人という立場から少数派の立場に入れ替わるという状況。

そしてロシア系ラトヴィア人として生きていくという選択をし、完全ラトヴィア回帰をしたいという、ラトヴィア系ラトヴィア人に対してロシア語も使えるような社会に残して行き、これが逆に完全ラトヴィア化したいけれども、ラトヴィア語しか話せないラトヴィア人は就職で不利になるという、いろいろな捻れというか、独立国家として振り切りたいし、全体的に民族国家回帰しきりたいのに、振り切れないジレンマを抱えている社会というのが何とも皮肉というか何というか。

そういうった社会背景、強烈なアイデンティティ回帰というのを軸に、伝統的なラトヴィアの文化、特に歌の祭典が好きであるとか知らない事ばかりで読んでいて楽しめました。

個人的に興味を惹いたのは、リーマンショックを発端とする世界不況期に、不況期の緊縮財政という普通とは逆、欲しがりません勝つまでは精神で乗り越えたという事ですかね。

日本でも参考にしてみればという扱いではありますが、人口198万人という名古屋と札幌の間くらいの国民の数ということと、国のトップが先頭きって給料減らしたり、共産主義時代の多くの省けるだけの無駄が残っていたという事と、まだ独立国家に戻って間もないと言う事で、国家総動員してナショナリズムを良い方向に使えたし、金持ちがちょろまかそうにも誤魔化すには国家として監視するにはちょうど良い規模、それこそ日本でも国全体では機能しきらない部分が、地方自治体だと何とか経費削減を本当の意味で削減もでき、失業の嵐になってもそれはそれで国民一体で乗り切ろうとする下地があったからこそというのも感じたり。

単純に本気で食えなければ、EUの他の地域に出稼ぎに行っていたというのもあるんですけれどもね、実際に日本国内の地方では食えない人が都市部に流入するのと同じ構図で。

ただまぁ、現段階では国民国家として復活したからこその勢いみたいなのはあるのかもしれないなぁと思ったり、また日本と比較するならば、それこそ戦後復興期かもしれないと思ったり。

あと、ラトヴィアだけのことだとなかなか親近感がわかないので、日本との関係性について触れられていて、日本人に対しては、ロシアを挟んだ隣の国という見方であるとか、小国なのにロシアに勝った国というインパクトであるとか、翻訳された文学のイメージとか、まだまだ実際の日本人との関係がそれほどないからこその偏見はあるものの、その偏見込みで印象は悪くはないようですね。

そのイメージと違う日本人を目の当たりにしてどう思うのかは知りませんが。

このシリーズはとりあえず全体を網羅しているので楽しめますね。

1 自然と都市
2 歴史
3 言語と生活
4 文化
5 社会
6 政治と経済
7 国際関係

テーマ : 読んだ本の感想等
ジャンル : 小説・文学

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