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今日の読書 黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実/リチャード・ロイド・バリー

2000年に起きた若いイギリス人女性であるルーシー・ブラックマンは日本で猟奇的に殺害されました。

そのルーシー・ブラックマン事件について日本在住のイギリス人ジャーナリストが取材してまとめ上げた1冊になります。

何か問題があった時、当事者よりも外側からの方が良く物事が見える場合があります。

中側にいると無意識のまま気がつかないことであるとか、暗黙の了解であるとか。

ある意味そういった問題点を外側の人だからこそ分かる強みとして徹底的に取材して、現実の事件であるにも関わらず、ある意味ではサイコスリラーでも読まされている気分になるくらい読みやすく時系列順にまとめた物になります。

軸としては、被害者であるルーシー・ブラックマンはどういう人物であったのか、彼女を取り巻く家族や友人関係、日本に来た経緯、日本での生活などなど。

そして、失踪直後日本の警察の対応の悪さとその要因、また警察の問題点や弱点。

さらに、加害者である織原城二とはどういう人物であったか。

この3つを軸にそれぞれが入り組んでいる最悪の事件を検証しています。

まずはルーシー・ブラックマンについては、親が離婚をしていて母子家庭としての苦労を味わうものの、基本的には平凡で、夢見がちで世間知らずで楽して金を得たいという普通の感覚を持ちながら、変に行動力があったり、友人と無計画に一緒に日本まで来てしまったりと、基本的に著者は普通の平凡な女性と表現従っているものの、日本人の感覚だけでは平凡かなぁ・・・とやや疑問に思ってしまうような女性。

ここら辺は飛行機の客室乗務員をしていた経歴のあとで、六本木で外国人ホステスとして働いていたという、日本でならば何自分から危険に飛び込んでいるのと偏見の目を向けるに十分な時に事件に巻き込まれていたから、その偏見を払拭する狙いがよく現れているなというものですね。

いわゆる日本の水商売、ホステスと言う存在は欧米では無い職業のようで、一緒に飲みながら面白くも無い話しを聞くという仕事そのものが理解されない。

いわゆる体を売る仕事では無いものの、日本で会っても水商売という職業が偏見から逃れることはできない、ややグレーな存在だが、真っ黒でもないという共通認識を説明するのにかなり労力を使っているなと思えたりもしますが、ここら辺も被害者の自業自得感を和らげる目的なんだろうなと。

でもって、日本国内の問題としては、なんで客室乗務員からホステスに転職したんだという不思議すぎる経歴が、イギリスでは日本の客室乗務員の社会的地位、エリートと見なされるような職業ではなく、飛行機に乗っているウエイトレス、ある意味誰でもなれる重労働な仕事でしかないという文化の違いもあると。

しかも、日本で水商売をしていたルーシーは観光ビザで働いていて、失踪届を出してもなかなか警察が本気で取り組んでくれなかったという悲劇であり、これは同時に日本の警察の問題点として扱います。

姿を消したルーシーのために、離婚した父親もやって来て両親や妹と来日して必死に探そうとしますが、日本の警察はなかなか動かず、イギリスのブレア首相が圧力をかけてようやく動き出すと言うところから、話の中心は日本の警察の問題点に力点が移ります。

六本木の外国人バー、観光ビザで働いているというのを黙認してなあなあですませてきた事、捜査方法も前時代的な証言至上主義であるとか、令状が無いと自由に踏み込んだりできないとか、警察の怠慢という批判もできるし、構造上の問題、あとどうしても堅気じゃ無い相手に対してはいろいろと厄介な部分があるというのとで捜査が進まない事。

日本での捜査が遅々として進まない間に、娘を思う両親は詐欺のカモになってしまったりと、実際の事件なのに犯罪小説を読むかのようにいろいろと詰め込まれたあとでようやく容疑者までたどり着くと、そこからは軸は犯人の人となり、そして有罪までなかなか持ち込めない日本の警察の問題点へと力点がまた移ります。

犯人である織原城二、1952年に大阪で生まれた、キムソンジョン、金聖鐘(きんせいしょう)、星山聖鐘と生まれながらに戸籍名である金聖鐘、韓国語読みで家の中ではそう呼ばれるキムソンジョン、通名である星山聖鐘と3つの名前を使い分けて生活することになる在日韓国人。

釜山で生まれ、自主的に日本に移住してきた金教鶴、全玉濤を両親に持ち、戦後のどさくさに紛れて確認できるだけで駐車場、タクシー業、パチンコ屋で多くの富を築き上げた裕福な家に生まれたのが犯人である織原城二と言うことになります。

戦後のどさくさに紛れ、パチンコ屋やヤクザを生業として巨万の富を得るいわゆる在日韓国人朝鮮人がいましたが、日本人よる遙かに多くの富を得ながらも、それでも差別を感じるような状況だったと、本書では指摘しています。

どれだけ、金があっても日本人ではないと言うことだけで差別と感じると。

ここら辺の差別の感覚としての説明で、国籍優位か出生地優位かという問題というか、国籍による区別と人種的差別を混同しているのか、恣意的に誤用しているのかは分かりませんが、どれだけ頑張って勉強しても官僚になることはできないというのが差別として深く感じるものと説明されているあたりは、どうだろうという気はしますが、少なくとも一方的に被害者意識を強めるものとしてそう考えていると理解する分には助けにはなるでしょうか。

どさくさに紛れて巨万の富を得た在日韓国人朝鮮人が子供達にする事は、必要以上の学歴への固執であり強制的に勉強を強いるという傾向。

金聖鐘少年もその例に漏れずプレッシャーにさらされながら勉強をしていたものの、そこから逃れたがっていた傾向がいくつもみられるとされています。

この少年時代について取材しようとして当時の級友達を取材してみると、かなり金聖鐘少年の異質さというのがはっきりしていて、とにかく自分の言いたいことを主張するが、他人の言う事に耳を傾ける気は最初から見受けられない、特に上手いわけでも無いのに野球をやる時にはピッチャーをやりたがり、それが受け入れられないとぶち切れるという厄介な子供で、親友などいなかった。

高校に進学する時は父親の管理下から逃げ出したいとして、東京に出てきて慶應義塾大学の附属高校に進学(慶応日吉の事ですから神奈川にと言う事ですが)ここでは通名の星山聖鐘で通して当時のクラスメイトは誰1人韓国人であると言う事を知らなかったし、隠していた。

しかし、ここでも友達は誰1人として作らず作れず、基本的に自分勝手な所は変わらず、目頭切開の整形手術をしているという事で、気味悪がられたりもしていたと。

そして、親からのプレッシャーから逃れるために成績を落とし普通にやっていれば上に行ける付属校なのにも関わらず大学は駒澤大学に進学し、その後もいろいろと真っ当な道は進まず、裕福な稼業を継いでやりたい放題の生活をしていた。

歪んだ性格は異常性欲者としてしっかりと発揮されて、征服プレイという主に外国人ホステスを狙って薬を使って眠らせての性的暴行、またそれを記録したりなんだりと正直反吐が出るものの満載。

この犯人にたどり着いた警察の問題点としては自白至上主義、一般的な日本人で通用する村社会的同調圧力が犯罪の抑止力になったり、犯罪が明るみに出たらば素直に自白(もしくは自白の強要に屈する)ものに慣れすぎていて、自白する気はさらさらなく、罪の意識はカケラも持ち得ないサイコパス相手に対する手段を持ち得ていなかった事、裁判は持ち込めば概ね有罪にまでなるのが日本の慣例であるが故に、徹底的に反吐が出るくらい無意味な反論で突っかかってくる相手に対する手段を持ち得ていなかった事、ここら辺はフィクションでもここまで悪人を書けたらたいしたものだというレベルですね。

一通り、かなり俯瞰して書かれているものですが、何故こんなモンスターのような加害者が出来上がったのかについては、あまり触れられていません。

加害者は徹底的に写真に写らないようにしたり、常に偽名を使いまくるという犯罪者ならでは行動をしていますが、私はここの要因の1つに生まれながらに3つの名前を持っていたからではないかというのを考えずにはいられません。

この3つの名前を持ち、後に日本に帰化する時はリセットするように全く別の名前である織原城二を本名にしている。

ここに闇があるのではないか、よくテレビゲームの影響で何でもすぐにリセットする若者というものの批判を目にします。

高校時代に通名だけで生活するという名前のリセット、高校時代にすでに顔の整形手術をしているというリセット、何かあったらばリセットすればいいとすり込まれた事が人格の歪みを助長したのではないか、もしそうであるならば通名というのはなんてひどい差別なのだろうと私は思わずにはいられないですね。

本来の韓国人である自分の名前を隠して生活するというのは、つまりは韓国人としての名前を名乗る事は恥ずかしい事であるとすり込む事と同義語、自分が差別されていると感じながら、その差別している相手に擬態しなければいけないという状況はどれだけ歪んだものか、戦時中は朝鮮半島の人間も日本人扱いでした。

これが日本の敗戦により本来の自分の愛する国籍に戻る事ができた、それを隠してまで日本に住み続けてしまった、日本に即座に帰化するわけでもなく、愛する祖国に帰るわけでもなく、日本人とは元々違う外国籍の人間であると開き直って本名を掲げて生きていく覚悟をつけるでもなく、アイデンティティを放棄してまで日本で荒稼ぎして中途半端な存在のまま差別だけは感じ続ける。

魂を金で売って日本に住み続けてしまった故のアイデンティティの消失が生んだ悲劇だと私は感じてしまったのですが、考えすぎでしょうかね。

これが考えすぎなのかどうか判断するためにも、多くの人に読んで欲しい1冊ですね。

第1部 ルーシー
 第1章  正しい向きの世界
 第2章  ルールズ
 第3章  長距離路線

第2部 東京
 第4章  HIGH TOUCH TOWN
 第5章  ゲイシャ・ガールになるかも(笑)!
 第6章  東京は極端な場所

第3部 捜索
 第7章  大変な事が起きた
 第8章  理解不能な会話
 第9章  小さな希望の光
 第10章 S&M
 第11章 人間の形の穴
 第12章 警察の威信
 第13章 海辺のヤシの木

第4部 織原
 第14章 弱者と強者
 第15章 ジョージ・オハラ
 第16章 征服プレイ
 第17章 カリタ
 第18章 洞窟の仲

第5部 裁判
 第19章 儀式
 第20章 なんでも屋
 第21章 SMYK
 第22章 お悔やみ金
 第23章 判決

第6部 死んだあとの人生
 第24章 日本ならではの犯罪
 第25章 本当の自分
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ジャンル : 小説・文学

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