今日の読書 富国と強兵 地政経済学序説/中野剛志

政治や経済など、いわゆる社会学分野の学問であるとか、その学問的裏付けをある程度利用した社会分析がどうにも現実社会と乖離しているのではないかという疑問を持たない人というのは恐らくいないと思います。

学問的なものと固く考えなくても、いわゆる報道による社会分析の外しっぷり、もしくは政治経済政策が狙ったように嵌まらないことなどでも、理論上大外しはしないはずなのに大外しをする事など枚挙にいとまが無いでしょう。

そういった外しっぷりが酷いのは理論上上手くいくはずという理論そのものが現実社会と乖離しているからと考えるのはある程度自然のの事だと思いますし、その現実と乖離した社会学分野の理論の問題は、総合的な分析から、学問分野別に細分化していった結果と考えるのはある意味普通ではあるでしょう。

しかし、その普通が出来ないのもまた社会学系の限界というか、いわゆる理系分野であれば実験によう検証がしやすく、物事を単純化したところから積み重ねて複雑な実験まで可能になるのに対し、実社会はそもそも実験ができない、理論上正しいはずという仮説を思いついたとしても証明手段がそもそもあり得ない。

また、現実社会を分析したとしても、専門分野外の事を横に置くと、その横に置いた部分こそが重要であると言うことを見過ごすことになり、そもそも理論上都合が悪いからこそ横に置くという恣意的な結論を導くことも往々にしてあり得ると。

そういった、分野別に専門化した弊害を正すためにも今度は逆に統合的に持っていこうというのが、地政経済学というものの狙いで、地政学と経済学は不可分、政治と経済は密接に繋がっているし、軍事条件と社会福祉は密接に繋がっているし、何か1つだけ取り上げても結局は現実と乖離するだけというのを説明しようとしています。

地政学という分野に関しては私はほぼほぼ無知、強いて言えば歴史上の出来事をそれぞれの土地の条件によって分析すれば、条件によって文化や行動様式がある程度決まるということは普通のことだろうなというのと、普遍的な価値観はそれはそれとして地球規模で共通して持ち得るものはあるが、ほぼほぼ普遍性は無い、世の中分かり合えることもあるけれども、分かり合えないこともあり、むしろ分かり合えないことなど何もないという理論で物事を進めると危険でしかないというのは感覚的に思っているものですね。

私のぼんやりと思っている、アンチグローバルと市場原理批判これを論理的にまとめてくれたものがこの1冊になるかなぁと思えるものでした。

アンチグローバル主義というと、今のご時世、差別主義者であるとか時代遅れというようなレッテルがすぐに貼られてしまいますが、私の考えているあるべきグローバルというのは、基本それぞれの国家は土着至上主義(本当は民族国家と言いたいところですが、現段階で出生地と民族が一致しない国家があるので一概には言わず)それぞれが一定以上の独自性を持ち、それぞれのお国柄や特徴を生かしたつきあい方ができる形にするべきという考え方ですね、例えば名前などを見て何人っぽいと見当がつくようなものとか。

しかし、現在のグローバル化というのはその逆で地球規模の全体主義や平準化という様相も含んでいたりして理想とは逆に行っているとしか思えない。

その最たるものが経済学の影響、いわゆる主流派経済学といわれる古典、新古典派の流れの自由主義であり、貿易をすればするほど社会はよくなる、関税をなくせばなくすほどよくなるという昨今の巷説はまさにそうですね。

経済学を学べば早い段階で比較優位論という貿易をする意味を学ぶわけですが、これがどうしても理論上理解は出来ても感覚的に拒否したくなるものであり続けているわけですが、ようは国際的分業と同時に比較優位に特化する事による国内産業の単純化、モノカルチャー化推奨にしか思えず、産業構造の変化に対するリスク細分化を真っ向否定するようにしか思えないわけですね。

そういった私が感覚的に理論ではそうだけれどもなぁと受け入れがたいと感じていて、でもじゃあ理論的にどう反論するかというと自分では理論構築はできないものを説明してくれているのを感じます。

基本経済学分野に関しては主流派経済学批判とさらに言うと主流派経済学であると理解しないままその理論を使っている人批判。

こと日本に当てはめると、財政再建至上主義あたりはそうでしょうかね、不況を脱するためには財政赤字をガンガン増やすことこそが理論上健全であるという事に大して、日本ではとかく財政赤字を問題視して、やれ日本破綻だと喧伝するような人だらけ、社会福祉が必要だと叫びながら経済政策は小さい政府を志向する捻れに気付かない人だらけと、日本の国内問題に当てはめるとなかなか面白く感じるものもあり、同時に野党時代に市場原理主義を批判していた人達が、ガンガン民営化こそ正義みたいな事をやり雇用創出どころか経済を不安定化させるという意味不明な事をやり、社会実験としては改めて雇用政策は市場主導では無理と証明するという、ブラックジョークもあり面白くないものもあり。

また、社会福祉の発展はそれこそ軍事と切り離せないという解説あたりは、日本の自称平和主義者あたりに読ませると発狂するんじゃないかと思えるくらいの分析もなされており、改めて地政学という戦争を含む国家的な問題分析をないがしろにしてはいけないというあたりも面白く読めますね。

全体的に非常に面白いのですが、問題は社会学分野の統合を狙っているだけに、それぞれをおろそかにできないということで、非常に長く扱っているもの全部に触れようとするとそれぞれの章ごとに論文を書けと言われているようなことになり難しくなるということですかね。

いわゆる専門書として読むのならば分かりやすいのですが(少なくとも経済学の専門書として読むのならば、数字やグラフが出てこないので、専門外の人も読みやすい)じゃあ一般書として読むとなると、社会学分野について何かしら既に囓っておかないと結構きついということで難しい部類に入る。

多くの人が読んだのならば、これを受け入れるかどうかは別として大いに異議があるとは思うのですが、簡単に人に薦めるにはハードルが高すぎる。

とりあえず、無いがしかの政治運動をしている人は必読書にしておいた方が良いですね、物事の単純化や極論化、単純な善悪二元論、戦争全否定論などなどについて考える事になるでしょうし良いとは思いますが、読む必要性がありそうな人ほど読まないだろうなと思ってみたり。

私のようにぼんやりと、市場原理主義への批判であるとか、国家間の関係は混ぜるな危険があると思っている人、戦争を絶対悪として考える事すら否定するという人こそがむしろ危険で戦争に向かわせているのではと感じている人。

そういったものに何かしら引っかかりを感じた人は、そのぼんやりと思っている事を補完してくれる1冊になっていると思います。


序 章 地政学と経済学

第1章 貨幣と領土

第2章 資本主義の不安定性

第3章 通貨と財政

第4章 領土の政治経済学

第5章 戦争と国家

第6章 資本と強制

第7章 第一次産業革命の地政経済学

第8章 第二次産業革命の地政経済学

第9章 ハルフォード・マッキンダー(1)

第10章 貿易の地政経済学

第11章 ハルフォード・マッキンダー(2)

第12章 戦争の経済的帰結(1)

第13章 制度経済学

第14章 戦争の経済的帰結(2)

第15章 経済成長の地政経済学

第16章 平和の経済的帰結

第17章 東アジアの地政経済学

第18章 領域国家と通商国家

終 章 地政経済学とは何か

テーマ : 読んだ本の感想等
ジャンル : 小説・文学

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