今日の読書 スティグリッツのラーニング・ソサエイティ 生産性を上昇させる社会/ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド
日本では経済学に関しては胡散臭い扱いされがちというか、いわゆる経済学としての基礎知識をほぼほぼ無視して、経済についてあれこれ言うコメンテーターなんていうのがいたり(これが困ったことに経済学者の看板を掲げて論理的分析をせずに個人基準の倫理分析で結論ありきで語る人がいたり)政治家にしろ官僚にしろ論理上から導き出した政策よりも、結論ありきであったり、全体的な視点ではなく自分にとって(所属している組織にとって)都合の良い金の使い方をするためのものをやったりと、正直なんだかなぁというのが溢れています。
そんな中私は個人的な確証バイアスの下、私は市場に任せておけば何でも大丈夫という、いわゆる市場原理主義に対して懐疑的を飛び越えて市場の失敗について力点を置きまくりのものを好んで読むようにしています。
小泉純一郎政権から民主党政権時代の市場原理主義っぷりが、バブル崩壊以降浮き上がりそうで浮き上がらない日本経済をさらにデフレスパイラルへと向かわせた要因となっているわけですしね。
まぁ市場の失敗についてよりも、日本の場合は政府の失敗や官僚の失敗というものが目に付きやすかったというのと、単純な二項対立構造が一番頭を使わなくても良いので、マスメディアが散々原因を固定化してしまったというのもありますし、マスメディアの一方的な報道というのも、それはそれで市場の失敗と言えるかもしれないですが、そういう分析は今回は取り立てて扱っていないので言及はしませんが。
ラーニング・ソサイエティというか本著はラーニングというものの重要性を伝えるものであるのですが、この概念を頭の中で整理しきらないといけなく、上手くまとめられる日本語訳があればいいのにと思い続けさせられるのですが、一般的な使い方ですとLearningですから一番普通の日本語訳ですと『学習』という意味になるのですが、学習というだけだと学生に向けた言葉に受け取られてしまいそうになるのですが、学習するという意味はもちろんあるのですが、情報や知識が誰にでも集積できるような仕組みであるとか、それを踏まえて経済成長や開発、生産性向上につなげるというまでを囲い込んだ概念と理解すればいいようで経過から結果まで含んでいるという感じですね。
このラーニングというものを使い、伝統的な新古典派経済学の不備を指摘、特に伝統的な経済学であると静学的な分析でおしまいになってしまうので、経済学の基礎知識の1つである貿易による比較優位論は、それを決めつけてしまうと農業国は永遠の農業国のままであり、工業化する事によって得られる知識や技術革新を得る事ができなくなり、それはそのまま永遠の発展途上国のまま先進国への仲間入りを目指すことすら出来なくなることを表しているとして批判し、比較優位論を無視して工業化して発展させた成功例に東アジア諸国を例に取り上げ、逆に伝統的な経済学の下ワシントンコンセンサスで制作を決めさせたラテンアメリカが見事に撃沈していると例に挙げたりしています。
ラーニングという概念を前面に押し出しているもの以外は、スティグリッツの他の著書と大きく被りますし、理解に困ることはなかったのですが、同時に動学的経済学となると覚えなくてはいけない範囲が広がりすぎて大変なんだよなぁって思ってしまったり。
とりあえず、日本で自称リベラルを名乗っている政治家は少なくともここに書かれている中身をすっかり理解して、政策に取り入れることが出来れば集票できるんじゃないのと思える物になっていますが、少なくとも財政赤字が無くなれば不況がなくなるとか、日本にとってのデフレは良いデフレであるとか言っている人が平気でいるようでは無理でしょうね。
第1部 成長・開発・社会発展の新しいアプローチ:基本概念と分析
第1章 ラーニング革命
1 市場の非効率性
2 ラーニング・ソサイエティ促進における政府の役割
3 比較優位理論の再定義
第2章 ラーニングの重要性について
1 マクロ経済学的視点
2 ミクロ経済学的視点
3 急速な生産性上昇事例に見るエビデンス
4 成長に関する代替理論
5 おわりに
第3章 ラーニング・エコノミー
1 ラーニングの対象
2 ラーニングのプロセス
3 ラーニングの決定要因
4 ラーニング・スピルオーバーの検証
5 ラーニングの障害
6 ラーニングの動機づけ
7 トレードオフ
8 おわりに
第4章 ラーニングを促進する企業とラーニングを促進する環境の構築
1 ラーニングを促進する企業
2 ラーニング・ソサイエティの構築のためのマクロ的条件
第5章 市場構造・厚生・ラーニング
1 イノベーションがある市場構造
2 競争の増加がイノベーションに与える影響
第6章 シュンペーター的競争の厚生経済学
1 知識の特徴的性質
2 イノベーション市場が非効率になる他の理由
3 社会的に非生産的イノベーション イノベーションはいつも厚生を向上させるのだろうか
4 進化論的プロセス
5 革新的経済システム
6 イノベーションと社会の特質についてのより広い考察
7 おわりに
第7章 閉鎖経済におけるラーニング
1 基本的競争モデル
2 独占
3 おわりに
第8章 幼稚経済保護論:ラーニングを促進する環境での貿易政策
1 幼稚経済保護論
2 幼稚産業論から幼稚経済論へ
3 簡単なモデル
4 最適な貿易介入
5 非定常状態の分析
6 競争の不完全性
7 おわりに
第2部 ラーニング・ソサイエティに向けた政策
第9章 ラーニング・ソサイエティ構築における産業貿易政策の役割
1 産業政策の必要性
2 発展途上国にとっての産業政策の特別な重要性
3 産業政策の目的
4 貿易政策
5 歴史の重要性
6 政治経済
7 産業政策に関する一般的考察
8 おわりに
第10章 金融政策とラーニング・ソサイエティの構築
1 金融市場の自由化
2 資本市場の自由化
3 金融と産業政策
4 おわりに:労働移動の規制に関して
第11章 ラーニング・ソサイエティのためのマクロ経済政策と投資政策
1 金融政策とマクロ経済の安定性
2 為替政策
3 投資政策
4 政府の投資政策と支出政策
第12章 知的所有権
1 知的所有権および社会的便益と指摘収益の関係
2 IPR制度の改革
3 IPRと国全体としてのイノベーション制度
4 知的所有権と経済発展
5 おわりに
第13章 社会変革とラーニング・ソサイエティの構築
1 信念の社会的構成概念と社会変革の一般理論に向けて
2 民主主義とラーニング・ソサイエティの構築
3 おわりに
第14章 あとがき
そんな中私は個人的な確証バイアスの下、私は市場に任せておけば何でも大丈夫という、いわゆる市場原理主義に対して懐疑的を飛び越えて市場の失敗について力点を置きまくりのものを好んで読むようにしています。
小泉純一郎政権から民主党政権時代の市場原理主義っぷりが、バブル崩壊以降浮き上がりそうで浮き上がらない日本経済をさらにデフレスパイラルへと向かわせた要因となっているわけですしね。
まぁ市場の失敗についてよりも、日本の場合は政府の失敗や官僚の失敗というものが目に付きやすかったというのと、単純な二項対立構造が一番頭を使わなくても良いので、マスメディアが散々原因を固定化してしまったというのもありますし、マスメディアの一方的な報道というのも、それはそれで市場の失敗と言えるかもしれないですが、そういう分析は今回は取り立てて扱っていないので言及はしませんが。
ラーニング・ソサイエティというか本著はラーニングというものの重要性を伝えるものであるのですが、この概念を頭の中で整理しきらないといけなく、上手くまとめられる日本語訳があればいいのにと思い続けさせられるのですが、一般的な使い方ですとLearningですから一番普通の日本語訳ですと『学習』という意味になるのですが、学習というだけだと学生に向けた言葉に受け取られてしまいそうになるのですが、学習するという意味はもちろんあるのですが、情報や知識が誰にでも集積できるような仕組みであるとか、それを踏まえて経済成長や開発、生産性向上につなげるというまでを囲い込んだ概念と理解すればいいようで経過から結果まで含んでいるという感じですね。
このラーニングというものを使い、伝統的な新古典派経済学の不備を指摘、特に伝統的な経済学であると静学的な分析でおしまいになってしまうので、経済学の基礎知識の1つである貿易による比較優位論は、それを決めつけてしまうと農業国は永遠の農業国のままであり、工業化する事によって得られる知識や技術革新を得る事ができなくなり、それはそのまま永遠の発展途上国のまま先進国への仲間入りを目指すことすら出来なくなることを表しているとして批判し、比較優位論を無視して工業化して発展させた成功例に東アジア諸国を例に取り上げ、逆に伝統的な経済学の下ワシントンコンセンサスで制作を決めさせたラテンアメリカが見事に撃沈していると例に挙げたりしています。
ラーニングという概念を前面に押し出しているもの以外は、スティグリッツの他の著書と大きく被りますし、理解に困ることはなかったのですが、同時に動学的経済学となると覚えなくてはいけない範囲が広がりすぎて大変なんだよなぁって思ってしまったり。
とりあえず、日本で自称リベラルを名乗っている政治家は少なくともここに書かれている中身をすっかり理解して、政策に取り入れることが出来れば集票できるんじゃないのと思える物になっていますが、少なくとも財政赤字が無くなれば不況がなくなるとか、日本にとってのデフレは良いデフレであるとか言っている人が平気でいるようでは無理でしょうね。
第1部 成長・開発・社会発展の新しいアプローチ:基本概念と分析
第1章 ラーニング革命
1 市場の非効率性
2 ラーニング・ソサイエティ促進における政府の役割
3 比較優位理論の再定義
第2章 ラーニングの重要性について
1 マクロ経済学的視点
2 ミクロ経済学的視点
3 急速な生産性上昇事例に見るエビデンス
4 成長に関する代替理論
5 おわりに
第3章 ラーニング・エコノミー
1 ラーニングの対象
2 ラーニングのプロセス
3 ラーニングの決定要因
4 ラーニング・スピルオーバーの検証
5 ラーニングの障害
6 ラーニングの動機づけ
7 トレードオフ
8 おわりに
第4章 ラーニングを促進する企業とラーニングを促進する環境の構築
1 ラーニングを促進する企業
2 ラーニング・ソサイエティの構築のためのマクロ的条件
第5章 市場構造・厚生・ラーニング
1 イノベーションがある市場構造
2 競争の増加がイノベーションに与える影響
第6章 シュンペーター的競争の厚生経済学
1 知識の特徴的性質
2 イノベーション市場が非効率になる他の理由
3 社会的に非生産的イノベーション イノベーションはいつも厚生を向上させるのだろうか
4 進化論的プロセス
5 革新的経済システム
6 イノベーションと社会の特質についてのより広い考察
7 おわりに
第7章 閉鎖経済におけるラーニング
1 基本的競争モデル
2 独占
3 おわりに
第8章 幼稚経済保護論:ラーニングを促進する環境での貿易政策
1 幼稚経済保護論
2 幼稚産業論から幼稚経済論へ
3 簡単なモデル
4 最適な貿易介入
5 非定常状態の分析
6 競争の不完全性
7 おわりに
第2部 ラーニング・ソサイエティに向けた政策
第9章 ラーニング・ソサイエティ構築における産業貿易政策の役割
1 産業政策の必要性
2 発展途上国にとっての産業政策の特別な重要性
3 産業政策の目的
4 貿易政策
5 歴史の重要性
6 政治経済
7 産業政策に関する一般的考察
8 おわりに
第10章 金融政策とラーニング・ソサイエティの構築
1 金融市場の自由化
2 資本市場の自由化
3 金融と産業政策
4 おわりに:労働移動の規制に関して
第11章 ラーニング・ソサイエティのためのマクロ経済政策と投資政策
1 金融政策とマクロ経済の安定性
2 為替政策
3 投資政策
4 政府の投資政策と支出政策
第12章 知的所有権
1 知的所有権および社会的便益と指摘収益の関係
2 IPR制度の改革
3 IPRと国全体としてのイノベーション制度
4 知的所有権と経済発展
5 おわりに
第13章 社会変革とラーニング・ソサイエティの構築
1 信念の社会的構成概念と社会変革の一般理論に向けて
2 民主主義とラーニング・ソサイエティの構築
3 おわりに
第14章 あとがき
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